評価期間が近づくたびに「また大量のコメントを書かなければ」と憂鬱になる管理職の方は多いのではないでしょうか。
5人の部下を持つ課長でも、半期ごとに目標設定・中間評価・期末評価の3サイクルが回ります。1人あたり30分かけると、1サイクルだけで2時間半。年間に換算すると15時間以上が評価コメントの作成だけで消えていきます。
生成AIを使うと、この作業時間を6割以上削減できます。しかも「成果が並みの社員ほどコメントが短くなる」「苦手な部下には漠然とした表現になってしまう」といった無意識のバイアスも解消されます。
この記事では、ChatGPT・Claudeを使って人事評価コメント・フィードバック文・目標設定書を効率化する具体的な方法を解説します。コピペで使えるプロンプト例と出力例もあわせて掲載します。
人事評価コメントをAIで効率化できる理由
まず「AIに評価を任せる」という誤解を払拭しておきましょう。AIが評価判断の代わりをするのではありません。評価者(あなた)がすでに頭の中で持っている評価の判断を、AIに文章化させるのが正しい使い方です。
評価のレーティング(S/A/B/C等)や判断はあくまで人間が行い、その結果を読み手に伝わる文章に変換する作業をAIに委ねます。
従来の評価コメント作成で時間がかかる理由は主に2つあります。
・何を書けばいいかわからない: 事実はあるのに、それを評価の言葉として適切に表現できない
・書き方のバリエーションが少ない: 毎回「頑張りました」「成果を出してくれました」という表現に頼ってしまう
AIはこの2つを解決します。評価者が事実(観察した行動・達成した数字・発揮した行動)を箇条書きで投入すると、AIが適切な文章表現に変換し、複数のバリエーションも提示してくれます。
AIを使った評価コメント作成の5ステップ
1. 評価材料を箇条書きでまとめる
まずAIへの「投入データ」を準備します。うまく書けるかどうかを考える前に、評価期間中に観察した事実をそのまま箇条書きにします。
まとめるべき内容は以下のとおりです。
・数値目標の達成状況: 目標値と実績値を具体的に(例: 新規訪問30件目標→38件達成)
・目立った行動・取り組み: 自発的に動いた行動、工夫した取り組み
・他者への影響: チームメンバーや後輩への貢献、協働した内容
・課題として感じた点: 期待に届かなかった部分や改善してほしい行動
この箇条書きを作る段階で「自分が何を評価しているか」が整理されます。これ自体が評価者にとって思考の整理になります。
2. 材料をAIに構造化させる
箇条書きした材料をAIに整理させます。
以下の評価メモを整理して、人事評価コメントに使える形に構造化してください。
■ 評価対象者: 営業部 田中さん(入社4年目)
■ 評価期間: 2026年4月~9月
■ 観察した事実(箇条書き)
– 担当顧客50社のうち38社を訪問(目標は30社)
– 新規開拓商談が3件(目標5件)→ 未達
– 社内ロールプレイを自ら企画して実施
– 数字は弱い印象があるが、顧客からのクレームが0件
– 後輩の松本さんに商談同行して指導していた
上記を「達成した点」「課題」「特筆すべき行動」の3つに分類した上で、それぞれに簡潔な評価コメントに使えるキーワードを追加してください。
AIの出力例:
達成した点:
・顧客訪問件数を目標比127%達成(30社→38社訪問)
・顧客クレームゼロという高い関係維持力
キーワード: 顧客密着、信頼構築、行動量の確かさ
課題:
・新規開拓商談が目標比60%(3件/5件)
・既存顧客への活動が中心で、新規開拓への踏み込みが不足
キーワード: 開拓行動の量・質向上、提案の幅の拡大
特筆すべき行動:
・自発的なロールプレイ企画→チームの提案力向上に貢献
・後輩への同行指導→組織力底上げへの貢献
キーワード: 自主性、育成貢献、チームへの波及効果
3. 評価コメント本文の初稿を生成する
整理した材料をもとに、評価コメント本文の初稿を生成します。
以下の評価材料をもとに、人事評価システムに入力する「上長評価コメント」を作成してください。
■ 達成した点: 顧客訪問数目標比127%達成。顧客クレームゼロを維持。後輩社員への積極的な指導行動。
■ 課題: 新規開拓商談が目標比60%(3件/5件)。提案の幅が既存商品に偏りがち。
■ 特筆すべき行動: 社内ロールプレイを自主企画・実施。後輩同行指導を主体的に実施。
■ 条件
– 文字数: 200字前後
– トーン: 客観的・建設的
– 「よく頑張りました」のような漠然とした表現は避ける
– 達成点と課題をバランスよく含める
– 最後に次期への期待を一言添える
AIの出力例:
顧客訪問件数は目標を大きく上回り、関係維持の徹底が顧客クレームゼロという結果に直結しました。自発的な社内ロールプレイの企画や後輩への同行指導など、チーム全体の底上げにも積極的に貢献しています。一方、新規開拓商談は目標に届かず、提案の幅を広げる取り組みが次期の重要課題です。顧客信頼の構築という強みを活かしながら、新規開拓への踏み込みに期待しています。(198字)
4. トーン別のバリエーションを生成する
同じ評価材料でも、何を伝えたいかによって表現を変えられます。
先ほどの評価コメントを、以下の3パターンに書き直してください。各パターン150字以内で作成してください。
パターンA: 強みにフォーカスした前向きトーン(課題は最小限に留める)
パターンB: 課題をしっかり指摘した厳しめのトーン(ただし否定的な表現は使わない)
パターンC: 成長のストーリーとして描く表現(次期への意欲を高める書き方)
3パターンを見比べることで、評価者は「この期に何をメインで伝えたいか」を明確に選べます。日ごろの関係性や成長段階によって最適なトーンは異なります。AIが複数案を出してくれることで、選択肢の中から選ぶだけになります。
5. 面談フィードバック文と次期目標を生成する
上長評価コメントと別に、本人に直接伝える面談用フィードバック文も生成できます。
以下の評価内容をもとに、評価面談で本人に読み上げる(または渡す)フィードバック文を作成してください。
■ 評価内容(プロンプト②の材料を貼り付け)
■ 条件
– 一人称(私は~)を使わず「あなたは~」の形式で書く
– 課題は「改善してほしい」ではなく「〇〇ができるようになると、さらに~」の形式で表現する
– 読んで前向きになれる文章にする
– 300字以内
さらに、次期の目標設定書の初稿も生成できます。
以下の今期評価をもとに、次期(2026年10月~2027年3月)の業務目標を3つ作成してください。
■ 今期の強み: 顧客関係構築力、後輩指導への貢献
■ 今期の課題: 新規開拓商談の件数、提案の幅の狭さ
■ 目標設定のルール
– 各目標にKPI(数値目標)を必ず設定する
– 「頑張る」「意識する」のような曖昧な表現は使わない
– SMARTの原則(具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限)に従う
– 各目標に「なぜその目標を設定するか」の理由を1行添える
AIの出力例(目標設定):
目標1: 新規開拓商談件数 5件以上(期末2027年3月末時点)
理由: 今期の課題であった新規開拓への踏み込みを数値で管理し、提案力の幅を広げるため。
目標2: 担当顧客のうち新商品提案実施率 60%以上(50社中30社以上)
理由: 既存商品偏重の提案パターンを改善し、顧客へのソリューション幅を広げるため。
目標3: 後輩1名への月次コーチングセッション実施(月1回以上・期末まで継続)
理由: 今期に発揮した育成貢献を制度化し、チームの底上げを継続的な成果として可視化するため。
実務での活用例(Before/After)
事例: 製造業・人事課長 川本さんの場合(部下12名)
川本さんは12名の部下を持つ課長。半期の評価期間になるたびに「コメントまとめ」に丸1日を費やしていました。特に困っていたのが「成果が平均的な社員のコメント」。悪くはないが特筆すべき点も少なく、毎回似たような文章になってしまっていました。
| 比較項目 | AI活用前 | AI活用後 |
|---|---|---|
| 1件あたりの所要時間 | 30~45分 | 8~12分 |
| 12名分の合計時間 | 約7時間 | 約1.5時間 |
| コメントの平均文字数 | 120字(好き嫌いでばらつき大) | 200字(均質化) |
| 表現のバリエーション | 「頑張りました」系に集中 | 3パターンから選択できる |
| 次期目標設定の時間 | 1件20分(12名で4時間) | 1件5分(12名で1時間) |
川本さんが最初に気づいたのは、「AIへの材料出しの段階で、自分が何を評価しているかが明確になる」という副次効果でした。AIに投入するための箇条書きを作る作業が、評価者としての思考の整理にもなっていたのです。
「以前は漠然と覚えていることでコメントを書いていたけれど、AIに材料を投入するために事実をまとめると、自分の評価の根拠がはっきりする。コメントを書く前から評価の質が上がった感覚がある」と川本さんは言います。
うまくいかない時の対処法
・「コメントが優等生的すぎる」: プロンプトに「評価者が実際に観察した具体的な行動を必ず含める」「一般論・抽象論は書かない」と条件を追加する
・「コメントが長すぎる」: 最初から「150字以内で簡潔に」と文字数を指定する。生成後に「半分の長さに圧縮して」と追加指示してもよい
・「良いことしか書かない」: 「課題を必ず1つ以上含める。その課題に対して次期はどう改善することを期待するかも添えること」と明示する
・「毎回同じ構成のコメントになる」: 「前回と異なる構成で書いてください。課題から先に触れる逆三角形の構成にしてください」と型を指定する
・「出力された文章が自分の言葉らしくない」: AIの初稿を読み上げて「自分が話すとしたらこう言う」という修正を加える。AIに「以下の文章を話し言葉に近いやわらかいトーンで書き直してください」と依頼するのも有効
・「個人情報をクラウドに入れることが不安」: 個人名は「Aさん」「営業4年目の担当者」などと仮名化して入力する。評価の数値・行動事実は一般的な業務情報として扱い、社内のAI利用ポリシーを確認した上で使用すること
人事評価にAIを活用する際の注意点
・最終的な評価判断は必ず人間が行う: 評価のレーティング(S/A/B/C等)はAIに決定させない。AIは文章化の補助ツールであり、判断者は評価者本人
・生成された文章は必ず読んでから使う: AIが事実と異なる内容を含む可能性がある。「自分の観察に基づいた内容か」を確認してから使用すること
・社内のAI利用規程を確認する: 業務利用が認められているAIツールの範囲、個人情報の入力可否について、情報システム部門や人事部門に事前確認を行う
・評価の公平性を保つ: チーム内の一部の社員だけAIを使ったコメントにすると、表現の質に差が出ることがある。マネージャー間で活用方法を統一することが望ましい
AI導入における社内ポリシー整備については、姉妹サイトDXマスターズ.TOKYOでも組織全体のAI導入ガイドラインの作り方を詳しく解説しています。
本記事のまとめ
AIを使った人事評価コメントの効率化を整理すると、以下のとおりです。
| 活用シーン | AIに任せる作業 | 人間が行う作業 |
|---|---|---|
| 評価材料の整理 | 箇条書きの分類・キーワード追加・構造化 | 事実の観察・材料の収集・判断 |
| 評価コメント作成 | 初稿の文章化・トーン別バリエーション生成 | 事実確認・表現の承認・微調整 |
| 面談フィードバック文 | 本人向け文章の初稿・読みやすさの調整 | トーンの確認・本人への説明 |
| 次期目標設定 | 目標案・KPI・設定理由の初稿生成 | 本人との合意・目標内容の承認 |
評価の本質は「評価者が何を観察し、何を大切にするか」という人間の判断にあります。AIはその判断を適切な言葉に変換するサポーターです。
最初は「評価をAIに任せていいのか」と戸惑うかもしれませんが、使ってみると「材料整理が明確になる」「コメントの表現が豊かになる」「苦手な社員にも均質なコメントが書ける」という想定以上のメリットを感じる管理職が多いです。
まずは1名分の評価コメントでAIを試してみてください。作業の流れが変わるだけでなく、評価者としての視点が整理されるという副産物も得られます。
社内でAIを使いこなせる人材を育成したい方は、社内AI人材育成の進め方|スキルマップで社員のAI活用レベルを可視化して底上げする実践ガイドもあわせてご覧ください。
