介護の仕事で、書類作成に1日1時間以上を使っていませんか?介護日誌・ケアプラン・ヒヤリハット報告書・ご家族へのお便り……現場では「利用者と向き合う時間を増やしたい」と思いながら、事務作業に追われる毎日が続いています。
生成AIを正しく活用すれば、この状況は変えられます。ChatGPTやClaude(クロード)などのAIは、介護記録の下書きや説明文の作成を数分でこなします。ただし、個人情報の取り扱いや施設ルールの確認が前提です。
この記事では、介護・福祉の現場でAIを安全に使いこなすための具体的なステップと、そのままコピーして使えるプロンプト(AIへの指示文)を紹介します。プログラミング知識は不要です。

介護・福祉現場でAIが求められる背景
日本の介護業界は深刻な人手不足が続いています。2025年時点で約32万人の介護人材が不足しているとされており(厚生労働省推計)、現場スタッフへの業務負荷は年々増加しています。
特に問題なのが「記録業務」の量です。介護保険制度では、サービス提供の根拠となる記録の作成が義務付けられており、以下のような書類を日常的に作成しなければなりません。
・介護日誌・経過記録
・ケアプラン(第1表~第3表)
・ヒヤリハット・事故報告書
・サービス提供記録
・施設だより・ご家族へのお便り
・カンファレンス議事録
これらの書類を手書きやWordで作成していると、熟練スタッフでも1日1時間以上を消費します。生成AIはこの「定型的な文章作成」を得意としており、下書き作成から始めるだけでも作業時間を大幅に削減できます。
AIを使う前に必ず確認すること
介護・医療現場でAIを使う際は、一般的な業務よりも慎重な姿勢が必要です。以下の3点を必ず確認してから使いはじめてください。
【確認1】個人情報を入力しない
ChatGPTなどのクラウド型AIに、利用者の氏名・生年月日・住所・病歴・要介護度などの個人情報を直接入力してはなりません。個人情報保護法および厚生労働省のガイドラインへの対応として、匿名化した情報のみをAIに渡すルールを徹底してください。
❌ NG例(個人情報あり) 「田中太郎さん(78歳・要介護3)の本日の入浴介助記録を書いてください」 ✅ OK例(匿名化) 「高齢男性利用者(70代・中等度の要介護状態)の入浴介助記録の下書きを 作成してください。体調は安定しており、介助に協力的でした。 右側に麻痺があります」
【確認2】施設のAI利用方針を確認する
AIの業務利用については、施設や法人ごとに独自のルールが設けられているケースが増えています。施設長や情報システム担当者に利用の可否を確認し、許可を得てから使いはじめましょう。
【確認3】AIの出力を必ず確認・修正する
AIが生成した文章は「下書き」です。実際の状況と照合し、誤りや不適切な表現がないかを必ず担当者がチェックしてから使用してください。AIは現場の様子を見ていないため、具体的な観察事項は人間が追記する必要があります。
介護・福祉現場で使えるAI活用法
1. 介護日誌・経過記録の下書き作成
介護記録の作成は、多くの施設でスタッフの負担上位に挙げられる業務です。「今日あったことをメモしておいて、後で文章にする」という作業がAIで効率化できます。
以下のプロンプトをコピーして使ってください。【】内の部分を実際の状況に合わせて書き換えます。
# 介護日誌の下書き作成プロンプト 以下の状況をもとに、介護記録の文章を作成してください。 語尾は「〇〇された」「〇〇の様子が見られた」など、 客観的な表現を使ってください。個人情報は含まないでください。 【時間帯】:朝食後(9:00頃) 【対象】:80代女性、歩行時に見守りが必要な状態 【実施したケア】:食後の口腔ケア、居室への移動介助 【観察事項】:食欲良好。口腔内に食べかすが残っていたため 丁寧にケア実施。移動時に若干のふらつきが見られた。 本人は「ありがとう」と笑顔あり。 【特記事項】:なし
このプロンプトを入力すると、AIは以下のような文章を生成します。
(出力例) 9:00頃、朝食後の口腔ケアを実施した。食欲は良好であり、食事は完食された。 口腔内に食べかすが残存していたため、時間をかけて丁寧にケアを行った。 その後、居室への移動介助を実施。移動時にわずかなふらつきが認められたが、 転倒には至らなかった。移動完了後、本人より「ありがとう」との言葉があり、 笑顔が見られた。特記事項なし。
生成された文章に実際の観察事項を加筆して完成させます。入力するメモが詳しいほど、出力の精度が上がります。
2. ケアプラン・支援計画の文章作成補助
ケアプランの「総合的な援助の方針」や「生活全般の解決すべき課題」の文章は、ケアマネジャーにとって毎月の大きな負担です。利用者の状況を箇条書きで入力するだけで、文章の下書きが作れます。
# ケアプラン「総合的な援助の方針」下書き作成プロンプト 以下の情報をもとに、介護保険ケアプラン(第1表)の 「総合的な援助の方針」欄に記載する文章を作成してください。 200字程度で、専門的かつ温かみのある表現にしてください。 【利用者の状況】 ・70代男性、脳梗塞後の左片麻痺 ・ADL:食事・排泄は見守り、入浴・移動は一部介助 ・本人の希望:「なるべく自分でやりたい」「自宅での生活を続けたい」 ・家族状況:妻が同居し主介護者。妻も持病あり、介護負担が増している 【目標とする状態】 ・残存機能を活かしながら自立度を維持する ・妻の介護負担を軽減し、共に安定した在宅生活を継続する
3. 利用者・ご家族へのお便り作成
月1回の「施設だより」や季節のご挨拶文は、内容のマンネリ化と文章作成の手間が課題になりがちです。AIに「季節」「テーマ」「雰囲気」を指定するだけで、読みやすいお便りの下書きが数分で完成します。
# 施設だより・ご家族向けお便りの作成プロンプト 以下の条件で、高齢者介護施設の「施設だより」に掲載する ご家族向けのお便りを作成してください。 【季節】:9月(残暑から秋へ移り変わる時期) 【内容に含めること】 ・施設内でのレクリエーションの様子(運動会の準備) ・季節の変わり目の健康管理(体温調節・水分補給) ・面会についてのご案内 【トーン】:温かく親しみやすい。ご家族が安心できる表現 【文字数】:400字程度
4. ヒヤリハット・事故報告書の下書き
ヒヤリハット報告書は、発生直後に書く必要があるため時間的プレッシャーが大きく、文章化が難しい業務の一つです。AIに状況を箇条書きで渡すと、報告書に適した客観的な文体の下書きを即座に生成します。
# ヒヤリハット報告書の下書き作成プロンプト 以下の情報をもとに、ヒヤリハット報告書の「事故の状況」欄の 文章を作成してください。客観的・具体的な表現を使い、 時系列に沿って記載してください。 【発生日時】:〇月〇日 14:30頃 【発生場所】:廊下 【対象者】:80代男性、歩行は独歩だが不安定な状態 【状況】:職員が廊下を通りかかった際、利用者がふらつきながら 歩いているのを発見。声をかけ腕を支えた。転倒は免れた。 本人は「ちょっとめまいがした」と話していた。 【措置】:居室に誘導し、バイタル確認。異常なし。看護師へ報告済み。
実務でのBefore/After
AIを導入した場合の業務時間の変化を、具体的な数字で見てみましょう。
| 業務内容 | AI導入前 | AI導入後 | 削減効果 |
|---|---|---|---|
| 介護日誌(1名分) | 10~15分 | 3~5分(確認・加筆含む) | 約60%削減 |
| ケアプラン援助方針 | 20~30分 | 7~10分 | 約65%削減 |
| 施設だより(月1回) | 1~2時間 | 20~30分 | 約70%削減 |
| ヒヤリハット報告書 | 15~25分 | 5~8分 | 約65%削減 |
もちろん、AIが生成した下書きをそのまま使うわけではありません。必ず内容を確認・修正する作業が発生します。それでも「白紙から書く」というプレッシャーがなくなるだけで、心理的・時間的な負担は大幅に軽減されます。1日10名分の介護記録を担当するスタッフであれば、記録業務だけで1日1時間以上の削減が期待できます。
うまくいかない時の対処法
【対処法1】出力が的外れな場合は情報を追加する
AIが意図と異なる文章を生成した場合、情報が不足しているケースがほとんどです。利用者の状況をより具体的に記述するか、「〇〇という表現を使ってください」「〇〇の点を強調してください」と追加で指示してみましょう。一度の指示で完璧な出力を求めず、対話を重ねることで精度が上がります。
【対処法2】専門用語・施設固有の表現が合わない場合
AIは一般的な知識をもとに文章を生成するため、施設固有の記録フォーマットや専門用語に合わない表現が含まれることがあります。「〇〇という表現は使わず、△△に統一してください」と指定することで修正できます。施設の標準的な表現をAIに最初から伝えておくと、以降の出力精度が上がります。
【対処法3】慣れるまでは「補助ツール」として使う
最初から文章全体をAIに任せようとすると、チェックの手間が増えることもあります。最初は「自分が書いた文章を自然な表現に整えて」「箇条書きをまとまった文章に変換して」という補助的な使い方から始めると、AIの特性を把握しやすくなります。

本記事のまとめ
介護・福祉業でのAI活用は、記録業務の効率化から始めるのが最も取り組みやすく、効果も実感しやすい領域です。ポイントをまとめると以下の通りです。
・個人情報を入力しない: 匿名化した情報をもとにAIを活用する
・施設のAI利用方針を確認する: 管理者への相談を先に済ませる
・AIは「下書き作成ツール」として使う: 最終確認は必ず人間が行う
・介護日誌・ケアプラン・お便り・報告書の4領域で特に効果を発揮する
・情報を詳しく入力するほど精度が上がる: 箇条書きのメモを渡すだけでよい
社内でAIに任せる業務と人間が担う業務の線引きについては、AIと人間の役割分担を設計する方法も参考にしてください。介護現場の場合、「文章の下書き=AI」「内容の確認・修正=人間」というシンプルなルールから始めるのが定着の近道です。
また、AIツールの利用管理体制については生成AIの利用ログ管理と内部監査体制の作り方もあわせてご覧ください。介護・医療施設ではコンプライアンスの観点からも、どのスタッフがどのようにAIを使っているかを記録しておくことが重要になります。
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